| 『グリの街、灰羽の庭で』 | 安倍吉俊 | 角川書店 |
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今年一本目の書評に持ってくる予定の本がやっと届きました。昨年4月からずっと『これは名作です』と言い続けてきたアニメ『灰羽連盟』の画集『グリの街、灰羽の庭で』。特別アニメ好きというわけでもないけど、わざわざ画集を買う気にまでさせられたのだから、どれだけ良い作品か分かってもらえると思います。昨年12月末に発売。画集なので、感想も何もないですが、アニメのストーリーに沿うかたちで、イラストと台詞の抜粋が載っている絵本みたいな体裁で、読み進むにつれて懐かしい記憶と悲しい記憶が交互に蘇ってきました(クウがいなくなった回と最終回は何度見てもしんみりしてしまいます)。逆に言えばアニメを見たことのない人にはちょっとつらいかもしれません。 少し細かい話をすると、初出のイラストは少なくて、DVDのジャケットのイラストなどどこかで見たことのあるものが多いです。あと、製作裏話も載ってないですし、設定資料集でもありません。あくまで画集。僕自身はこれで良いと思います。 改めて書きます。タコから耳が生えるまで何度でも書きます。この作品、ほんとに名作です。 「アニメだから」とか、「深夜放送だから」とか、「角川系だから」とか、そういう余計な先入観を捨てて、ぜひ見ていただきたいです。特に『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の「世界の終わり」や、『ICO』のような静寂な世界が好きな人(僕の周りには一人もいなかったけど)には気に入ってもらえると思います。 | |||
| 『ペンギンの世界』 | 上田一生 | 岩波新書 |
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ペンギンの生態についての入門書。ペンギン好きとしてちゃんと勉強しておこうと思って借りたが、予想外に面白かった。何が面白いって、ペンギンの生態ではなく、この本のそこかしこに表れる著者の「ペンギン愛」。本人は意図していないんだろうけど、普通の人から見ればちょっと「ヘンな」描写がちらほらと。(南極調査の途上)『そう、ここはペンギンたちの海。彼らに挨拶なしで通過しては失礼ではないか。』 「ないか」って言われても、と困惑するが、さらに 『もし死に直面したペンギンの脳裏に自分の生涯が走馬灯のように蘇るとすれば、その60%以上が海上でのくらしだろう。』 要するに、感情移入が勢いあまってやたらとペンギンを擬人化したがってるところがあるのだ。そんなペンギン愛あふれる文章が多々見られるが、それとは別にショックだったのが「赤い足跡」の話。 南極に上陸して、氷原を歩いていると自分の足跡が赤くにじむ場所がある。実はその下にはペンギンの死体が埋まっていて、その上を歩くと死体から滲み出した血が足跡を赤く染めるのである。あのほほえましいペンギンのコロニーの下にはペンギンの死体が何層にも折り重なって埋まっているらしい。 「桜の木の下には死体が埋まっている」と書いた人もいたが、ペンギンの下にはペンギンが埋まっているのである。 | |||
| 『妊娠小説』 | 斎藤美奈子 | ちくま文庫 |
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以前『紅一点論』を読んでおもしろいと思った斎藤女史の処女評論。「妊娠小説」とは著者が作り出したカテゴリーで、小説中、登場する女性(大体が主人公と付き合ってる)が「妊娠しちゃった」と主人公に告白する筋を持った小説のことを指す。もちろんこの「妊娠」は望まれた妊娠であるはずもなく、大筋においてこのあとに待っているのは「主人公の苦悩」→「中絶」→「別れ」である。この本はそんな妊娠小説を、一方では堕胎を巡る社会状況の変化と照らし合わせながら(コンテクスト)、また一方ではこの種の小説を類型化しながら(テクスト)論じた評論。 『紅一点論』と同様、文学的な機微なぞ無視してバッサリと作品を切り捨てる著者の姿勢は潔い。「文学とはこんな風にして読むものではない」とくさされたこともあるそうだが、僕からすれば文学とはこのように新たな視点を導入することで作品が蘇ってくるのだと思う。例えば多くの高校生が読まされた森鴎外の『舞姫』も、定説とされている(らしい)「近代人の苦悩」という主題という視点ではなく、本書で示されたような「妊娠小説の父」という視点を用いることでまた息を吹き返せるのではないだろうか。 | |||
| 『セクシーボイスアンドロボ』 | 黒田硫黄 | 小学館 | ![]() |
「UK君の紹介するマンガ、全然知らんやつばっかりやし。」と、先日の生湖底でぐろぐろさんに言われたので、今回はちょっとメジャーなところを買ってみました。この前買った『そっと好かれる』のなかで少し触れたけど、作者は黒田硫黄。昨年ジャケ買いを始めたときからから「欲しいリスト」の結構上方に位置していたのですが、例の映画「茄子 アンダルシアの夏」が公開されて、世間でもちょっとした話題になったので、ほとぼりが冷めるまでしばらく買うのを控えていました。そんなわけで映画にもなった『茄子』(amazon)を買ってもよかったんですが、それもベタなのでとりあえず選んだのが、小学館のサイトで見た感じ面白そうなにおいがした『セクシーボイスアンドロボ』。いろんな声を使い分ける特技を持つ中学生の女の子・ニコが、黒幕っぽい謎の老人からの指令を受け、スパイをする話。 スパイ活動をしているだけあって、ニコにはやたら大人びたところもあるのだけど、やっぱり言動に子どもっぽいところが残っていて、こういうこの年頃特有の不安定さが物語をおもしろくしています。 それにしても、この人独特の筆ペンで描いたようなフリーハンド風の画風はどうやってるんだろう? 「下描きなし」ってことはないと思うけど、この画風はすごく勢いがあっていいですな。もちろん画風も僕好みです。 |
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| ★今月の一冊★ |
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★活字 今月は久しぶりに赤が多かったです。数は少ないですが、どれを読んでも損はないかと思います。 ★まんが 小田扉の2作。『こさめちゃん』をつかまなかったら、『そっと好かれる』にも辿り着かなかったわけで、こういう偶然の出会いというのもあるのだなあ、と。 |