楠木坂コーヒーハウス>書庫>【書評・感想】2001年9月(やまなか)

2001年
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2001年9月


「異文化理解」 青木保 岩波新書
 異文化を理解するということについて、自分の体験、いろんな事件、一般論などいろんな立場から説明し、イデオロギーではなく文化が世界のバランスを握るようになった現在社会で、異文化理解がどれほど大切かについて語る。なかなか読みやすく書かれていて、分かりやすい。
 異文化とかそういうことに興味を示しだした、大学一回生なんかにはすすめられる本といえます。けど、ぼくは、日本に住んでいる限り、異文化理解なんていうことができると思ってないし、日本(ていうか関西)から出て行くつもりもないので、あんまり関係ない話かも。


「R.P.G.」 宮部みゆき 集英社文庫
 たまにはこういうベストセラーっぽいのも読んでみようかなあとか思って買ってみました。文庫で500円。安かった。
 で、内容なんですけど、内容について語れないタイプのミステリーなので、まあ犯人が誰かは読んで楽しんでくれ。ちょっと、個人的には反則のような気がするんですけど、まあなかなかおもしろかったのでよしとします。娯楽としてはよいのではないでしょうか。



「東京の戦争」 吉村昭 筑摩書房
 自分の、東京での戦争体験をつづったエッセイ。「火垂るの墓」に代表されるような悲惨な戦争体験というものを体験したのが、実はごく一部の国民だったということは結構知られていると思うんですけど、この作者も、そういう悲惨な体験はしていません。ので、当時の、意外と明るく、たくましい人々の様子が描かれております。まあ、記憶の中で美化されてるのかもしれないですけど、仮にそうだとしても、おもしろい話ばっかりだと思う。
 とはいえ、食糧難は深刻だったわけで、戦争が始まってから、虫歯で来る患者がほとんどいなくなったという歯医者の話なんかは、妙に生々しい。軽く書き流してあるので、2〜3時間あればすっかり読めるでしょう。

「アメリカのジャーナリズム」 藤田博司 岩波新書
 これ、大学で拾った本です(床に落ちてたわけではないけど)。
 前半は、アメリカのマスコミ(ていうか新聞)をめぐる状況の説明。アメリカには、日本の読売とか朝日みたいな、全国各地で読まれている新聞というのがあまり存在せず、みんな基本的には、自分の住んでる地域のニュースがほとんどのローカル新聞を読んでるらしい。ふーん。
 で、後半は、70年代にあれほどがんばっていたアメリカのマスコミが、80年代にはすっかり政府に飼いならされてしまったという著者の嘆き。レーガン政権以後、政府はマスコミ対策を確立させ、完全にイメージ重視で押していくようになってしまったなどというあたり、今の日本となんか似てるところも感じられますな。著者が共同通信の特派員であるだけのことはあって、非常にしっかりした内容の本だと思います。「ニュースウィーク」とか「タイムズ」とか読んでみようかな。

「サッカーへの招待」 大住良之 岩波新書
 別に、リレー小説の彼女のキャラ作りのために読んだわけではなく、家を掃除してたら出てきただけです。
   長年サッカー記者をしてきた著者が、サッカーについて書いた本。サッカーのルールと組織、戦術が発展してきた歴史について、簡単に説明してあります。サッカーのことを何も知らん人にとっては、やや厳しいかもしれんけど、多少サッカーについてかじったことがある人なら、いい入門書になるでしょう。ぼくは、多少かじった人なので、おもしろく読みました。
 ただ、Jリーグができたときに書かれた本なので、ちょっと現在とは日本サッカーのおかれてる状況が違う。サッカー=中田とか小野だと思う人は、最近の本を読んだ方がいいかもね。

「世界がわかる 宗教社会学入門」 橋爪大三郎 筑摩書房
 この本借りてきて読もうと思った日に、アメリカでテロが起きました。偶然にびっくり。
 で、この本ですけど、キリスト教、仏教など、日本人がそれなりに知っている(と思い込んでいる)宗教と、イスラム教、ユダヤ教という、日本人があんまり知らん宗教の基本的な考え方について、これでもかというほどにやさしく解説してあります。超くわしくてわかりやすい世界史の教科書という感じですな。
 例えば、仏教の目的は悟りを開くことであり、極楽に行くことではない。極楽に行くと、今までに悟りを開いた人による話が聞け、修行のレベルが格段に上がって、次に人間として生まれ変わったときに確実に悟りを開けるから、みんな極楽に行きたがるのだというような話が書いてあり、キリスト教の天国と極楽をごっちゃにしている日本人にとっては、いろいろと目から鱗の内容であります。
 が、あくまでも教科書としてはくわしいというレベルであり、それほど深い話はしてません。キリスト教と仏教はかなりくわしく書いてあるけど、イスラム教、儒教はそれほどでもない。神道やヒンズー教について書いてないのもやや気に食わん。
 しかしまあ、入門書のつもりで書かれた本にそんなことを言うのはひどいと思うので、おとなしくもうちょっとくわしい本にいこうと思います。ちゃんと参考文献も書いてあることだし。

「老人さん」 山内喜美子 文芸春秋
 作者もあとがきで、「この本を書いているときは、ものすごく不愉快で、もう書くのをやめようと何度も思った」って言ってるんですけど、読むほうとしても、かなり不愉快になります。
 要するに、ある老人ホームで暮らす老人たちにスポットを当てたドキュメンタリーです。1話に1人の老人が登場し、その人たちがここに入るようになったいきさつとか、ここでどんな暮らしをしてるのかということが延々と書いてあるんですけど、ほとんど全員が痴呆症。おむつを手放せず、風呂に入るのもごはんを食べるのも、人にやってもらわないとできない。見た目は普通なのに、近づくと便の匂いがするとかいう話が出てきて、もうなんか情けなくて耐えられんかった。その上、徘徊はする、気難しくなる、人の話を理解できない。介護をめぐって、家族の人間関係も壊れてくる。読めば読むほど、こいつらは一体何のために生きているのかという思いが強くなります。子供を育てるのと違って、老人介護は、死ぬのを待っているだけであり、痴呆症も絶対改善しないという、何とも言えない絶望感。ホスピスと似たようなものだと作者は言ってますけど、なんかそれも違うような気がする。
 しかし、他人事だと思えないところが、たぶん不愉快になるところなんでしょう。自分や家族の身に降りかかるかもしれないというのがあるから、他人事としてあっさり読むことができないわけで、だからこそ腹が立つ。痴呆症にはなりたくないけど、なるかもしれないし、なったらどうしようと考えても、あっさり結論の出る話でもない。というわけで、この本を読むのはしんどいわけです。
 でもやっぱり、1回ぐらいは読む必要があるような気がするんですけどね。

「はじめての構造主義」 橋爪大三郎 講談社現代新書
 構造主義という考え方がどういうものか、ものすごく分かりやすく書いてあります。入門書として、これ以上のものはないのではないでしょうか。この本の著者は、「世界がわかる 宗教世界学入門」と同じ人なんですけど、入門書を書くのが非常にうまい。知識がある人が、知識のない人にも分かるような本を書くという、できそうでできないことを十二分にやってのけているあたり、ただものではない。
 とはいえ、構造主義自体がなかなか難しいので、今説明しろと言われても、なかなかできないんですけど。ちなみに、この人によると、ポスト構造主義が出てからかなり経っている現在でも、構造主義はなお最新の考え方であり続けてるとか。これを超える思想は、そう簡単には出てこないらしい。ふーん。

「遺伝子組換え食品」 川口啓明/菊地昌子 文春新書
 一方、こっちは、分からない人に向けて書くということを考えていない入門書。
 遺伝子組換え食品に対する誤解、偏見を解くために書いたらしいんですけど、「なんか知らんけど体に悪いらしい」とか、ひどくなると「毒が入ってるらしい」と思ってるような人に対して書くのに、延々とDNAの話をしても分かるわけない。せっかく専門家なんだから、素人にもわかるように書いてよね。
この本で読む価値があるのは、4章以降。要するに、遺伝子組換え食品っていうのは、普通の作物(例えばジャガイモ)に、「農薬に強い」という性質を付け加えただけであって、その他の部分は普通のジャガイモと何も違わない。むしろ、今までの品種改良の方が、薬品で遺伝子をあちこち傷つけ、欲しい性質が偶然出てくるのを待つという方法なんだから、巻き添えで狙いの遺伝子以外の部分も傷ついて、人間に悪い影響を及ぼす可能性がないとは言えないので、遺伝子組換えよりもずっと危ない方法らしい。
 というわけで、僕は、遺伝子組換え表示などものともせず、組換えてあるやつも買うことにします。

「選挙参謀」 関口哲平 角川書店
 この小説最高。選挙参謀というのは、選挙に立候補する人から依頼されて、選挙活動を企画し、候補者を当選させるという職業。選挙プロデューサーです。主人公はある市の市長から頼まれ、市長選の選挙をプロデュースするわけです。しかし、明らかに劣勢。そこで、正道、邪道を使いこなし、ダーティーな選挙戦略を練っていく・・・とまあ、そういう話。
 本物の選挙参謀が作者なので、話はものすごくリアル。実際のことを知っている人じゃないと書けない話、知っているからこそ本当っぽく見えるウソなど交え、濃い、濃い話が展開していきます。これは読み始めたら止まらない。こういう、ノンフィクションと小説の融合した話っていうのは、どれもこれもおもしろい。ぼくの好みにぴったり。登場人物がどいつもこいつも、2時間刑事ドラマみたいなB級さなんですけど、それもまたなんかちょっと笑ける。
 で、まあ、選挙が最後どうなるかはもちろん言わないんですけど、選挙が終わったあとの、エピローグにどんでん返しが待ってます。「君のおかげで当選したよ、ありがとう」とか、そういう当たり前の展開には全然ならない。このへんもぼくの好みにジャストミート。ぜひ読んで。

「マウンドの心理学」 江川卓 ザ・マサダ
 スライダー依存症、ファールの打たせ方、フォークボールと三振、伊藤(西武)と古田のリードの違いなど、主にバッテリー間のことに絞って書かれた野球論。解説者としての評価はすでに高い江川ですけど、この本もなかなかちゃんとした内容でいいと思う。
 ただし、お世辞にも文章がうまいとは言えない。内容はおもしろいから、もっとうまく書けたら読む人をぐいぐい引きつけられるのになあ、とは思います。
 今年出た本なので、データが新しいのもいい。よくある野球の本って、いまだに60〜70年代の選手が中心だったりするので。その点、松坂とか石井一久とかが出てくるのはいいし、僕らまだ若い野球ファンとしてもうれしいところではあります。野球好きならまあ読む価値あり。

「社会がわかる本」 橋爪大三郎 講談社
 「ル・クール」という女性雑誌に連載されていた話の単行本。そんな名前の雑誌聞いたことないなあ。なお、93年の本ですが、間違いなく60年代と見まがう、すばらしい表紙であります。
 で、基本コンセプトは、「大人のための社会科の教科書」らしい。テーマも「共産主義とは何か」、「脳死と移植について」というようなかたいものから、結婚相手の見つけ方などという、ほっといてくれというようなものまでバラエティーに富んでいる。というより、脈絡がない。
 しかしまあ、おなじみ橋爪大三郎なので、内容はなかなかわかりやすい。宗教のところで、まだただのカルト教団だと思われていたころのオウム真理教が出てきたり、アメリカとパレスチナ問題について書いてあったりして、社会科の教科書という目的も、それなりに果たされています。
 「平易明快、懇切丁寧、興味津々」というキャッチフレーズ通りの本。すぐ読めるので、一読しても損はないでしょう。

「オカルト」 坂下昇 講談社現代新書
 読んで字のごとく、オカルトについて書いた本。が、これはさっぱり。
 文学研究をやってる人間の文章って、どうしてどれもこれもこんなに抽象的で、自分に酔ったような文章なんでしょう。新書で横書きというのもどうにも許せん。せっかくいいテーマを扱ってるんだから、もっとおもしろく書けるはずなのになあ。読了放棄。

「日本人のための宗教原論」 小室直樹 徳間書店
 「世界がわかる 宗教社会学入門」 と構成がそっくり。と思ってたら、この人は、橋爪大三郎の師匠らしい。な〜るほど。
 で、内容のほうですけど、さすが師匠という感じであります。キリスト教、仏教、イスラム教について、くわしく、わかりやすく書かれており、特にイスラム教のところはいい。コーランとその注釈書「スンナ」、「イジュマー」、「キヤース」などによって、イスラム教の教義と戒律は細かく決められているらしい。というか、これは法律である。コーランが憲法、スンナ、イジュマーとかが刑法、民法などの各法律という関係に近いような気がする。特に、社会が変化して、今までの教義だけで対応できないことが起きた場合、コーランの研究者たち(イスラム法学者という)が、コーランに反しないように新しい教義を作っていくことになっているというあたりは、もろ法律。
 6章儒教と7章は、まあおまけみたいなもんで、好き勝手なことを思いつくままに書いてるという感じですけど、それもご愛嬌ということで。とにかく、イスラム教について知りたかったら、これは読んだ方がいいですよ。

★今月の一冊★
 今月は当たりが多かった。先月嘆いてたのがウソのようですな。
 その中でも、やっぱり「日本人のための宗教原論」がおすすめ。「世界がわかる 宗教社会学入門」と合わせて読めば、さらに理解倍増。先に、「世界がわかる〜」を読んだ方がいいと思います。
 しかし、両方読んでも仏教はなかなか分からんかった。仏教むずい。ていうか、理解してしまえば悟りを開くことになるわけだから、そう簡単に理解できるわけもないわけです。納得。逆に、イスラム教はめちゃくちゃ分かりやすい宗教やった。
 小説からは「選挙参謀」。これはおとなしく読みなさい。以上。 

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